今回は、Vol.2のインタビューでご紹介させていただいた染川さんのお店「Cafeひだまり」のご近所さん、吉山郁子(よしやま いくこ)さんです。
吉山さんは、約30年ほど、愛知県でお仕事をしながらご家族と暮らしていましたが、日々の忙しさに少し疲れてしまい、「もっと田舎へ行きたいなぁ。」と、思うようになったそうです。
その時に、ふと思い出したのが、お子さんが小さい頃、よく家族で遊びに来ていた大台町やお隣の大紀町のこと。もう一度、改めて大台町を訪れてみて気持ちが固まり、5年ほど前に大台町での新しい暮らしを始めました。
【大台町での暮らし】
大台町の中でも「薗」という土地を選んだのは、畑がしたいという理由だけでなく、家と家との距離があって広々としているので、自分のペースで暮らしていけるのではないかと思ったからでした。ところが、暮らし始めてみると、ご近所さんとの距離はあるものの、何か一人で困っていると、すぐに誰かが声を掛けてくれたり、野菜作りのアドバイスをくださるご近所さんがたくさんいて、とても助かっているそうです。
ここへ移住する前は、あまり近所付き合いがない方がいいと思ったけれど、今では、ご近所さんが、もっと近くに、たくさんいるところでも良かったかもしれないと思うほど、地元の方の優しさが心地良いのだとか。
愛知県にいた時には、小さな土地で家庭菜園を趣味にしていた程度でしたが、移住してすぐに、畑を1カ所借りてこじんまりとやっていたことが、「土を触りたい」という気持ちがどんどん大きくなって、今では大台町内に畑を3カ所、田んぼを1枚借りるまでになりました
「今のように畑や田んぼがたくさんできているのは、地元の人たちが自由に使っていいと貸してくださる土地があることや、さりげない気遣いに助けれらているから。自分がこんな風に暮らしているなんて、信じられない。」と仰っていました。
【こだわりの土作り】
畑では、農薬や化学肥料は使わず、米ぬかや落ち葉などを使って作った土と、有機肥料で、さまざまな種類の野菜を育てています。
吉山さんは、良い土作りのために、この辺りでは手に入りにくい広葉樹の落ち葉を、大台町内の違う地域まで集めに行くこともあるほど、土を大切に考えています。
有機の土作りは、おいしい野菜が育つ良い土になるまでに、1年、2年と時間を掛けないと作れないので手間暇がかかりますが、土にこだわり続けるのは、安心して食べられるおいしい野菜を作りたいという気持ちの他に、「野菜も、それを食べる人も、土が良いと喜んでくれている気がするんです。」と仰っていました。
【農作業と販売】
畑で野菜がたくさん収穫できた時には、三瀬谷の「道の駅 奥伊勢おおだい」で販売されています。夏場は、道の駅に毎日納品するほどたくさん収穫できますが、今は、冬場でも採れるにんじん、ブロッコリー、なばな、菊芋などを、収穫できた時に少しづつ納品しています。
そして、吉山さんが一番楽しみにしている「ブルーベリー」は、畑に90本もの木があります。収穫したら、生でそのまま食べるのが一番おいしいそうで、シーズン時には、道の駅にもブルーベリーを出荷しています。
また、「農業は、家族や身近な人たちと、同じゴールを目指して一緒にできるのが良いところですね。」とも仰っていて、田んぼで育てている古代米は、田植えも稲刈りも、機械を使わず手作業で行っているので、一人では大変だからと、毎回ご家族もお手伝いに集まる楽しい時間になっています。
大台町での農業は、自然との距離が近く、どうしても獣害被害に悩まされます。2019年は、鹿や猪が田んぼに入ってしまい、お米がほとんどダメになってしまったという経験もありました。
現在は、畑や田んぼに、ネットや電気柵をつけて獣害対策をとっていますが、大切に育ててきたお米がダメになってしまったのは、とても辛い経験だったはず。しかし、吉山さんは、「一昨年は大変だったんですよ。今年も何があるか分からないですけどね。」と、明るい表情でお話ししてくださいました。
吉山さんのお話を伺っていると、ここは一人で生活していても、一生懸命やっていれば、いつでも地元の人たちが助けてくれる心強さがあり、「なんとかなるからやってみよう」と前向きに一歩踏み出せる場所なんだと感じました。
そして、「今の生活は、とってもハッピーなんです。」とおっしゃった吉山さんの表情が印象的でした。
【これからの目標】
今後は、野菜をお店に卸すだけでなく、自分の育てた野菜をどんな方が手にしてくださるのか、直接お客さんの顔を見て販売したいと思っているそうです。
また、畑に柚子の木があり、毎年小さな柚子の実をたくさんつけるので、それをジャムなどに加工して販売してみたい、と今後のことを楽しそうに語ってくださいました。