Vol.43 小野 清美 さん

Vol.43 小野 清美 さん

今回のインタビューは、大ヶ所(おおがしょ)にお住まいで読み聞かせグループ「おはなしプーさん」代表の小野 清美(おの きよみ)さんです。
長年続けてきたプーさんの活動や大好きな本、子ども達への熱い想いを伺いました。

【家業を手伝う子ども時代】

伊勢で生まれ育った清美さん。当時、ご両親が営まれていた酒屋さんは、地域密着、店先に立ち飲みスペースも併設されており、仕事帰りの大人たちで賑わう場。ご近所への味噌や醤油の配達やお中元、お歳暮、ギフト商材の包装などをよく手伝い、子どもながらに“信用第一”“責任を全うする”という姿勢が自然に備わったと言います。
肩書きが「おはなしプーさん代表」ではありますが、一見、先頭に立って旗振りをするタイプには見えない清美さん。しかし芯の強さを感じさせられる根っこは、ここにあるのかもしれません。
やがて学業を終えて銀行に就職。何年か働いた後、結婚を機に大台町へやってきます。
そして2002年4月。開館する大台町立図書館を支え盛り上げる人材を町が募集。
幼い頃より本が大好きだった清美さんは、読み聞かせの経験はなかったものの、おもしろそうだとこれに参加しました。

【「おはなしプーさん」ができるまで】

そこは、元教師や保育士、朗読、演劇の経験者などあらゆる分野から年齢層も幅広く集まっており、初対面の方ばかりで全くまとまりのない集団だったそうです。
しかし清美さんは“読み聞かせ”とは何かを理解している人がいない中、持ち前の責任感で動き始め、お隣の勢和村図書館(現多気町)の素晴らしい司書さんに教えを請いました。
メンバーからは発声練習が必要じゃないか、バックミュージックを流して読むのはどうか、など各々の分野の経験から様々な提案がありましたが、
「読み聞かせってな、もっとシンプルなもんで。あくまで絵本が主役なんさ。自分のナマの声で、自分が薦めたい本を、自分は黒子に徹してその内容を届けることが大事ってことを教えてもらったんさ」と振り返ります。
「“淡々と”って言うんやけど、大袈裟に抑揚をつけない、声色を変えない、楽しいとか悲しいとか、感じ方は人それぞれ。どういう場面でどう感じるかは全て聞き手に委ねる事が大事なんさ」

読み聞かせの会「おはなしプーさん」の様子

読み聞かせがどういうものか勉強しながら、それを自分よりも年上で人生経験豊富なメンバーにうまく伝えることに苦心し、会の存続の自信もなく、泣きたい気持ちだったそうです。
そんな中でも絵本が好き、お話を届けたい!という気持ちは萎えませんでした。
若手でフットワークが軽いというだけでこの団体の代表におさまることになった清美さんは、「代表らしいことは何もしてないんさ」と控えめな発言。
メンバーには自分が口で説明するより、実際に見て感じてもらった方が理解が深まるからと、目指す“読み聞かせ”のお手本を勢和の図書館へ聞きに行ってもらったことも。
やがて会は落ち着き、活動が軌道に乗ったのは3,4年経過した頃でした。

【おはなしプーさんの活動】

「おはなしプーさん」は町内のこども達にはとても馴染みのある存在です。最初は図書館での定例会だけだった読み聞かせの場は、小学校、保育園、子育てサークルなどから依頼を受けて出向くようになりました。
選書から練習、実際に赴いて本番まで、なかなか時間も労力も使います。
また、7月と12月の定例おはなし会は少しお祭り気分。参加するとプレゼントがもらえたり、素敵な仕掛け絵本のようなプログラムが配られます。
これは工作が好きな清美さんが趣向を凝らしてデザインを考え、材料も揃えて作成されています。清美さんの手で大まかな下地の作成を行い、細かな仕上げはメンバーにお任せ。
個性豊かなプログラムが出来上がります。

仕掛け絵本のようなプログラム

【選書が一番難しい】

清美さんは当初、勢和の図書館に通い、何から手をつけていいか分からなかったので、あ~わ行までの絵本を片っ端から全て読みました。
そして分からないなりに、これは読み聞かせ向きかも!!という本をピックアップ。
書名、作者名、出版社、簡単な内容と感想をバインダーに記録していきました。
その作業は大変だったけれど、知らなかった世界に足を踏み入れて毎日ワクワクしていたそうです。

「どんなんが読み聞かせに向いてるかとかな、少人数にはええけど大勢には向かんなとか、内容はええけどちょっと子供らの気持ちを傷つけてしまうなとか、分かってきてな」
みんなが大笑いする楽しいだけの本でもダメ。心に刺さるような、刺激を与えるような、そして心が温まるものを届けたい。1クラス40人の前で読む際は、みんなが本を好きな訳ではなく、本の苦手な子がいたり、全く本に注目せずざわついてしまうこともある。そんな時は、自分の読み方が悪かったのか、選んだ本が合わなかったのか、など悩むこともあったそう。しかし、その場のすべての人に受け入れられるのはそもそも無理な話。小さな子どもであっても好き嫌いや興味の方向が様々なのだから。
「40人中1人でもこの本がおもしろいなぁと思ってくれて一生忘れられんていう本になったら、その読み聞かせは成功です」
立ち上げ時お世話になった司書さんの言葉に、支えられ、救われ、続けられているそうです。

【心をとらえて離さないもの】

「本は1冊1冊が芸術品やと思とるんさ」
ストーリーや絵はもちろん、紙の厚み、表紙の見返し、装丁のディテールまで含めて、素敵だと思ったものは手元に置いておきたい。
自分の好きな本に加えて、読み聞かせ用にと蔵書は増え続け、ご自宅には400~500冊ほど。

小野 清美さんの蔵書

幼い頃、好きだった本を伺うと、小公女、母を訪ねて三千里、アンデルセン童話。ファンタジーも大好きでいつも主人公に成り切って空想していた少女時代。大人になってからは劇団四季にハマり、気に入った演目は何回でも観に行くそうです。
今はテレビの街歩き番組などで、かつて想像していたヨーロッパの街並みや建造物を眺めていますが、時間ができたら、大好きな物語の舞台を実際に歩く旅に出たいと目を輝かせます。そこでは空想を現実の舞台装置の上で存分に繰り広げ、どっぷりとその世界に浸れることでしょう。

【私の居場所】

プーさんに在籍して22年。生まれたばかりの赤ちゃんが成人するほどの長い年月。その活動に誇りを持ちつつも、「本当に皆に支えてもらっとるんさ」と言います。
「みんな本当にええ人でな」
読み聞かせの選書は各々のメンバーの感性に任されています。ボランティアとはいえ、図書館や学校など公的な場での活動。本が好きで気軽に集まった人たちかもしれませんが、何故か皆、真面目でプライドと責任感を持ってそれぞれの現場へ出掛け、務めを果たされています。無償の奉仕ですが、「子どもらから元気もらってるから」とメンバーからの言葉。
清美さんより年上のメンバーも多く、こういう風に年を重ねていけたらと思う憧れもあるそう。
主婦だった清美さんに仲間ができ、社会と繋がる大切な場所。
「みんな本当にええ人ばっかりで」インタビュー中、何度も聞く言葉。
「私の居場所やなぁ」

小野 清美さん

今までこの活動に関わり、支えてくれた人全てに感謝の気持ちでいっぱいと感慨深く振り返ります。
しかし、続けていくためにはメンバーの高齢化も気になる問題です。
学校などは平日の午前中に出向くことが多く、仕事を持つ人は土曜日だけなど、それぞれの都合に合わせて活動中。
「子どもや本が好きな人なら誰でも気軽に来てくれるとええんやけど」と仲間を募っています。

【子ども達に本との出会いを届けたい】

清美さんのお子さん達が幼い頃、寝る前にはやはり読み聞かせが習慣でした。中学生くらいになった頃から本の内容について話ができるようになり、今や子ども達の方から本のお薦めをされています。子ども達と共にハリーポッターやヤングアダルトなど自身では選ばないジャンルを読み、新たな本に出会うことができました。
「1人の人間が死ぬまでに読める本の数ってさ、限られとると思うんやけど…。何か本との出会いも縁みたいな感じやな」

絵本棚

だから今の子ども達にも色んな分野の楽しい本にたくさん出会ってほしいと語ります。
そのために、清美さんは、今日も頭の片隅で冬のお楽しみ定例会のプログラムのデザインを思案したり、次回の自分の当番のおはなし会のための選書をしたり、読む練習をしたりと楽しみながらも忙しく過ごしているのです。

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