Vol.35 西村 理恵 さん

Vol.35 西村 理恵 さん

今回のインタビューは、下真手(しもまて)にてふたば農園を営まれている西村 理恵(にしむら りえ)さんです。
この辺りではちょっと珍しい色や形の西洋野菜、香草をメインに扱っており、基本的に土作りから種まき、収穫、納品まで全ての工程をご自身で担ってみえます。
ひとり農業の忙しい日々、そして溢れる“やりたいこと”について伺いました。

【ふたば農園のルーツ(根)】

昔は田んぼだった広い土地が、畑として活用され、青々とした野菜たちが出迎えてくれました。理恵さんは、畑、茶畑や立派なハウスまで管理されており、父親の畜産業、牛の世話も手伝われています。

ふたば農園の野菜たち

「100種類以上植わってると思いますよ」

多品種無農薬栽培と聞けば、その仕事量は凄まじいと想像できます。
「やること多すぎて時間が足りないです」
手間を減らしたり儲けを考えれば、品種を絞った方がいい。分かっているけれど、かわいい野菜を見つけるとその種を「つい買っちゃう」んだそう。

「育てるのが好きなんですよね。種から芽が出て、世話するのが好きで」

なんと収穫したりその野菜を味わうことよりも、育てる過程が愛おしいそうです。
どうして始めたのか尋ねると、「どうしてでしょう?」「なんで始めたんだろ?」「自然な流れで」とあいまいな返答。

しかし、どのような子供だったのか聞いていくとやはりそのルーツが見えてきます。

幼い頃は庭に牛小屋があり、祖父母がお茶としいたけを生産。農作物や手作り団子を朝市に出していた姿を見て育ちます。
花やハーブを育てるのが好きだった少女時代。その当時、決してメジャーではなかったゴーヤやズッキーニを祖母に植えて欲しいとねだったりしていたそうです。ちょっと変わった野菜が好みなのは今も昔も変わらないよう。

「しいたけの手伝いも嫌々しとったけど…」「団子とかも教えてもらっとけば良かった…」
今なら祖父母と一緒に農業やりたかったなとぽろり。

学生時代は愛知県に出て栄養士の資格を取り、大きな病院で働いた経験があります。しかし道行く人が挨拶も交わさない都会の生活が合わず、故郷へUターン。地域の社会福祉協議会など色々やりたいことが湧く度に職を転々としつつ、そのルーツ(根)からついに芽が出る時を迎えます。

【ふたば農園の芽】

10年程前、大台町が耕運機購入かハウスを建てる資金を援助する補助金を出し、その要件が生産した農作物を5年間道の駅おおだいへ出品し続けることでした。周りの農業従事者がどんどん年を取り、祖父母も亡くなった後の畑。
ついに好きだった“土いじり”を仕事にする一歩を踏み出します。

ふたば農園の野菜たち

しかしながら、当初は畑の世話の方針が異なることで父親とぶつかることが多かったそうです。除草剤や農薬も撒かずにできる訳がないという父に対し、理恵さんは化学農薬や化学肥料も使いたくないため大ケンカに。
父の主張は、重労働に娘が音を上げて畑を荒らせば、近所の方にも申し訳ないという親心。心配する父と反発する娘。

「前までは一人でできるわけないって勝手に手伝ってくれてた(手を出されていた)けど、今は(どうすればいいか世話の仕方を)聞いてくれるようになったし、畑は別々にしてくれました」

親子であるが故のぶつかり合いの理由はこれひとつには収まらないですが、草刈りや獣害対策など何でも一人で一途に頑張り続ける姿はようやく認められたようです。

今ではお互い植えたいものがありすぎて、畑の取り合いで仲良くケンカしています(笑)

Visonにならぶふたば農園の野菜たち

珍しい野菜を栽培するきっかけになったのは、多気町の商業施設VISONの開業でした。
町内の道の駅では浮いてしまうルッコラやチコリ、ビーツも都市部からの客層がターゲットのヴィソンでなら販売できると考え、これまで趣味程度にしか植えてこなかったちょっと変わった野菜をついに本格的に扱うことになります。

【ふたば農園の日常】

多岐に渡る仕事は季節や天候に左右されながら刻々と変化し、その苦しくも楽しそうな日々がインスタグラムに投稿されています。備忘録のために始められたそうで農業日誌代わりです。

出品した野菜が少しでもしなっとしてきたら店頭から下げてもらうよう、スタッフさんに依頼するというマイペースに見えて真面目な理恵さんはとっても正直者。
いつでもタイミングよく作業できる訳もなく、「やっと種蒔きができた!」とか「納品に行きたかったけど行けなかった~」とか「カラスに食べられた~」など。
ピカピカで色鮮やかなお野菜たちが皆様のお手元に届く前のたくさんのドラマ。やりきれなかった仕事や思いもよらないトラブルなど、失敗も含めて赤裸々に見せてくれます。

そして植物に優しい理恵さんは、周りのお年寄りにもとても優しく頼りにされており、まるで民生委員さんのよう。

ご近居さんと会話する西村 理恵(にしむら りえ)さん

「私、何人分のマイナンバー登録したか…。ちょっとスマホ教えてたらケータイ教室できるくらい人集まってきて(笑)」
ネットショッピングの代行や納品ついでのヴィソンツアー、おばあちゃん達とのランチなど。
「私も気軽に呼んじゃうんですよ。ちょっと袋詰め手伝ってーとか」
元々土いじりが趣味のため大先輩たちと話がよく合い、年の離れた素敵な友人関係が築かれています。

【ふたば農園のこれから】

ただでさえ忙しいのに理恵さんは企画好き。やりたいことは溢れてきます。

インタビューの中で一番目がキラリと光った一言。
「漬物漬けたいんですよ~!黄色とかピンクとかカラフルな蕪。めっちゃかわいい…。」

ふたば農園の野菜たち

他にも、直売所、お年寄りの健康サロン、農福連携サービス、観光農園などなど。

また、都市部からの移住で畑をやりたいという人は多いが、なかなか場所探しや住民との関係の構築など簡単でないことも少なくない。その両者をうまく取り持つマッチングサービスもやりたいことのひとつです。

【ほんとは隠居のつもりだったんですよ】

働く姿が素敵な彼女から出た言葉とは思えずに耳を疑いました。
「早めのリタイヤのつもりがこんなに忙しくなっちゃって…」

商売がしたかった訳じゃなく、自分のやり方、自分のペースでゆったり丁寧に作った野菜を食べる。そんな穏やかな自給自足でのんびりした毎日を送るつもりだったそうです。

でも実際に農業を始めてみると隣近所で田んぼや畑をしている人は自分の親よりも年上の方ばかり。世代交代できずに農耕放棄地や太陽パネルも増えています。
若い世代にも魅力ある仕事にして少しでも農業人口を増やし、この緑に囲まれた素敵な風景を守りたい。

「土に優しくしたい」
「その土地を残したい」

使命感が強くなりました。

西村 理恵(にしむら りえ)さん

さらに獣害、肥料、資材の高騰、収入面など頭を悩ますことがたくさん。

でもインスタグラムやヴィソンで広がった若い農家さんたちとの交流、スーパーでは売っていないような野菜をお客様やレストラン様の元にお届けするのも楽しい時間。
そして、また懲りずにたくさんの品種の種を蒔き、面積も増やしてしまうのです。
隠居生活のつもりが、時間が足りないやる気満々の毎日に。

「でも今のところ、そんな毎日が楽しくて…」

お話を伺っている最中にもご近所のおばちゃんからラインが。
「たぶんPayPayの入金のことです(笑)」
マイペースにゆったりできる日はまだまだ訪れることはなさそうです。

西村 理恵(にしむら りえ)さんとワンコ

ふたば農園
instagram : futaba831

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