Vol.32 山門 覚 さん

Vol.32 山門 覚 さん

今回紹介するのは、生まれも育ちも三重県多気郡大台町栃原(とちはら)、自宅敷地内で「ブルーベリーおおだい」を営む山門 覚(やまかど さとる)さん。

家業であるお茶農家を継ぎましたが、心機一転現在のブルーベリー摘み取り園として業種転換したストーリーをお聞きしました。

【ブルーベリーおおだい】

青いネットで囲まれた大きなブルーベリー園。入り口には休憩スペースが設けられ、夏の収穫時期には多くの観光客がブルーベリー狩りに訪れます。
「ブルーベリーおおだい」は、農薬を使わない栽培方法であることが魅力の一つ。

ブルーベリーおおだい

「ブルーベリー栽培は農薬不使用でやっているところも多くあるけれど、どう対処してもやっぱり虫がつくので、途中で挫折しそうになる。」ほとほと参ったという笑顔で語る山門さん。
ブルーベリーの旬は、6~8月の3ヶ月間だけ。収穫時期以外に行う管理が大変で、それが勝負だといいます。
「冬になると、害虫の卵の駆除がある。病気も出るけどそれは仕方がない。完全に虫との闘い。ブルーベリーは簡単ではない。」

【ブルーベリーとの出会いは小学生の頃】

戦争から帰ってきた山門さんのおじいさんが、山門製茶を創業。
現在のブルーベリー園の場所には一面お茶の木が植わっていました。
幼い頃から、家業を継いで3代目となるのが夢。お茶農家として生まれたことを誇りに思っていた山門少年。
小学校高学年の時、おじいさんが好きだった盆栽のカタログ本を見ていたところ、ブルーベリーの苗木を発見しました。
「美味しそう」と思い、親に頼んで2本の苗木を買ってもらい、自分で庭に植え、実がなるとブルーベリージャムにして食べていました。
「その時のイメージが残っていて、美味しいということを知っていたので今につながったのかも。まさか自分がブルーベリーを将来生業にするとは夢にも思っていなかった。」と当時を振り返ります。

ブルーベリーおおだいの敷地

【お茶農家としての修行】

中学の先生の勘違いから、高校は三重県立久居農林高等学校の「農業科」ではなく「園芸科」に進みました。
高校卒業後、お茶農家を継ぐために、静岡にあるお茶の研究施設で、研修生として2年間勉強。
卒業してから1年後、今度は海外で2年間の修業へ。
訪れたのは、アメリカのブドウ農家でした。最南端のアリゾナ州は、初夏から気温40度、真夏には50度近くまで上がる極暑の地。
そこでは、「こんな農業あるんか!」と、驚きの農業が行われていました。暑さを利用して早く大量に収穫し、お客様に低価格で提供する。量産型の農業でした。
研修に入ったブドウ園の隣にはミカンの農場があり、グレープフルーツやオレンジを作っていたといいます。
山門さんは、海外での経験をこう活かしています。
「アメリカで学んだことは、反面教師になった。大規模で安くお客様に提供するより、手間をかけて品質の高いものを本当にほしがっている人に届けたい。自分がやりたい農業が明確になったという点で、いい勉強になった。」
当時は、早く大台町に帰ってお茶をやりたいと思っていたそうです。

山門さんはお茶農家だった

【お茶農家からブルーベリー農家へ】

大台町は雨が多く、宮川の流域に濃い霧が発生するなど、気候風土がお茶の栽培に非常に適しています。
「高品質なお茶を作ることができたという意味では、良いお茶農家生活が送れた。」と山門さん。
三重県で産出される「伊勢茶」は、お茶の栽培面積・生産量・生産額が、静岡県、鹿児島県についで全国3位です。
その中でも大台茶は、肉厚に育った茶葉が、煎を重ねてもコクと香りが持続する質の高いお茶で、全国の品評会でもたびたび入選しています。

山門さんがお茶農家を継ぎ、約10年。
ペットボトルのお茶という最大のライバルが出現したことで、茶葉の値段がどんどん下がり、そこへ原油の価格も跳ね上がるなど様々なことが絡み合って経営がうまくいかなくなりました。
「やりたい気持ちもあるけど、ここは判断の時で、違うことをするチャンスかもしれない。その時『あ、ブルーベリーや!』とひらめいた。」
そうです。小学生の頃、庭に植えたあの美味しかったブルーベリー。
「お茶の木は酸性の土が大好きなことで有名。その酸性に耐えられる植物は他に何があるか。ブルーベリーも酸性の土が合うので、丁度いいと始めたのがきっかけ。小学生の頃は、お茶と同じ酸性の土が好きというのは全然考えず植えたけれど、実は理にかなっていた。」 先生の勘違いから進学した高校の園芸科では、ブルーベリーが酸性の土を好むことも教わっていたのです。まるで全てが繋がっていて、運命に導かれているよう。
思い立ってすぐにブルーベリーの苗木なんと300本購入し、幼かったあの頃のように、茶畑の一角に愛情込めて植えました。

山門さんが育てるブルーベリー

「お茶もブルーベリーも同じで、植えてから7年くらい収入がない。一区画にブルーベリーを植えて7年間放置状態。ほったらかしにしてお茶ばかりしていた。なので、100本くらいは枯れてしまい…。」
年々お茶を商売にすることが難しくなり、途中、縁のあった松阪の運送会社「ムロオ」に就職した山門さん。
ムロオは、食品を扱う運送会社で、そこでは食品がお店に並ぶまでの流通も勉強できたそうです。
7年間働き、ブルーベリーは12、3年経ちすくすくと生長、「これはもう何とかせなあかん!」というほど大きくなり、ムロオを退職して戻って来ました。

【ブルーベリーの品種】

いざブルーベリーを始めようと調べると、その品種はなんと100種類以上。
まずは苗屋さんに聞き、「これがいいよ」という品種を中心に、自分で選んで申し込みました。
しかし、人気のある苗屋さんだったので、ほしい苗は全部売り切れ。これなら残っているという7種類の苗を買って植えたのが最初でした。残り物の苗だったので、半分の品種は正直に言うと美味しくなかったといいます。それでも不思議なことに、大事に育てると、年を重ねるたびに美味しく実っていきました。
「雨の多い大台町の環境や土が良かったからではないか。」
山門さんは農業において、生まれ育ったこの土地を高く評価しています。
「ブルーベリー狩りは鉢植えのところも多いが、うちは土への直植えで勝負。鉢植えの方がコンピュータでキチンと管理できるので簡単だと思う。でも、大台町は自然が強み。それを活かさずコンピュータ管理では面白くない。アメリカで学んだように、コンピュータ管理とは逆で、自然を生かした農業がしたい。それが大台の魅力だから。」

山門さんが育てるブルーベリー

そして次の苗の販売時期を待ち、今度は「これこそ」という品種を購入して植えました。 その木がやっと今広げられるようになって、2023年、ブルーベリーおおだいは昨年の倍以上の面積になりました。
「これだけの数や品種があったらお客様にも喜んでいただけると自信があるので、今年はわくわくしている。」
ブルーベリーの木には一本一本、山門さんが手作りしたという、品種と特徴が書かれたプレートが付けられ、ブルーベリー狩りを楽しむ際にはその味の違いと共に知識も身に着けられそうです。

山門さんが手作りしたプレート

【ブルーベリーおおだいの楽しみ方】

30種類以上の品種を楽しむブルーベリーおおだいでのブルーベリー狩りは、時間無制限の食べ放題と太っ腹。
「休憩テントでは何をしてもいい。持ち込みも自由なので、コーヒーを淹れて飲んでいる人もいるし、クリームとパンも持ってきて、サンドイッチにして食べている人もいた。少しいただくと、すごく美味しかった!ブルーベリー食べ放題なのにパンを持ち込んだら、お腹いっぱいにならないかな?と心配にはなったけれど…。何回も来てくれるお客様は面白い!こんなことできるんやって感心する。それぞれにいろんな楽しみ方がある。」
地元の方のほか、松阪市、津市、鈴鹿市などから来るお客様が多いそうで、VISONができてからは、県外のお客様も増えたそうです。

ブルーベリーおおだい

ブルーベリー狩り以外で、できる範囲内での出荷もされています。
取扱店は、三重県産無農薬野菜を宅配する「雨ニモマケズ」、わくわく広場イオンタウン津城山店、VISONがメイン。
実は、この「雨ニモマケズ」という会社は、山門さんが働いていた運送会社の当時の所長が、農家さんから農作物を集荷しているうちに、「こんなに頑張っているのに無農薬で大切に作られる野菜の扱いがひどい」と一念発起して起業した会社です。これもまた、繋がっていますね。
そして、お菓子屋さんやレストランにも卸していて、ブルーベリーおおだいの近所にあるケーキ屋さん「hinata」では、2019年春のオープン当初から「ブルーベリーのタルト」にブルーベリーおおだいのものを使用しています。
hinataオーナーパティシエにお話を伺いました。
「山門さんのブルーベリーとの出会いは、お店をオープンする前。以前勤めていたレストランで、『すごく美味しいブルーベリーがある!』と、取引が始まったことを聞いていました。hinataがオープンした日、山門さんが来店してくださり、初めてご挨拶。ブルーベリー園にも行ってみました。聞いていた通り、無農薬で驚くほど大粒で甘くて美味しい!うちのケーキに使わないわけがないですよ。」

山門さんのブルーベリーを使った「hinata」の「ブルーベリーのタルト」

すぐに大人気のケーキ屋さんとなったhinataは、売り切れ次第終了のお店ですが、ほとんどの営業日がお昼頃に完売します。
山門さんはこう言います。「hinataさんのケーキをオススメしたいけれど、すぐ売り切れるので、ブルーベリー狩りを楽しんでいたら間に合わない。先に買ってからブルーベリー狩りにみえるお客様もいて、休憩スペースで食べてみえますね。」

【ブルーベリーおおだいのこれから】

今年はブルーベリー狩りを「じゃらん」の体験にも登録し、さらに精力的にお客様を受け入れていきたいという山門さん。
「サウザンハイブッシュのユーリカという品種を気に入ってたくさん植えた。ユーリカというのは『すごい』という意味。それほどに甘くて美味しい。でも、この品種の収穫時期は他のブルーベリーよりもかなり早い5月下旬。この木が5~6年後に大きくなったら、開園時期が早まっていると思う。」
お茶を極め、現在はブルーベリーを徹底研究。ブルーベリー園の端には、別の果物も植えられています。
例えば、ブラックベリー。酸味がたまらない大粒のブラックベリーは、食べごろがかなり短いので出荷は不可能。ブルーベリー狩りに来た人だけが楽しめます。

山門さんが育てるブラックベリー

他には、イチジクやマンゴー、アボカド、モモなどにも挑戦中。何年か経って実をつけるのを楽しみに、ブルーベリーから派生して他の農作物も色々とやってみたいと未来を見つめます。
「できれば他にも色々植えて、長くフルーツ狩りを楽しめる農園にしたい。サルという強すぎる敵がいるので、難しいかもしれないけれど…。」
シカやイノシシ、サルなどの獣害で、野菜はほぼ全滅と諦める家庭も多い大台町。
「日本中を探しても、こんなに恵まれた地はあまり見当たらない。大台町の入り口である栃原で、くじけるにはまだ早すぎる。」
海外で農業を学び、改めて自然豊かな大台町の環境を最大限に活かせる農業がしたいと決意し、山門さんは、獣害にも台風にも虫にも雑草にも負けずに、今日もブルーベリーと向かい合っています。

ブルーベリーおおだい
HP : https://blueberry-oodai.com/ 
住所 : 三重県多気郡大台町栃原950-2 
Tel : 090-2689-0762 
営業時間 : 9:00~17:00 
定休日 : 不定休(お問合せください)
※ブルーベリー狩りは、完全予約制です。
※お問い合わせメールアドレスは、bberry0144@gmail.comです。

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