今回のインタビューは江馬にお住まいの武田 誠(たけだ まこと)さん。
武田さんが代表を務める希少な木も含めた少量多樹種を取り扱う「武田製材」は、マニアや木工作家も垂涎ものの品揃えと豊富な「材」の知識を求めて、全国から取引を依頼されています。そんな武田さんに「『雑木』の魅力」や「製材の面白さ」などについてお話いただきました。
【原点と原風景】
「三重県で一番ふざけた製材所!」を名乗るこちらの会社。自称「ビーバーハウス」の名の通り、敷地には迷路のようなパレットの山の間に、曲がりくねった木々が所せましと集められています。「国産のいろんな木、一般的なスギ、ヒノキ、桜やケヤキ、街路樹や庭木、神社や公園やお寺の木、ミカン・カキ・ナシ・リンゴの果樹材など、挽けるものはなんでも挽く。」と言う武田さん。お目当ての木の情報が届くと、自ら軽トラを運転し、県内外の距離も厭わず買いに走ります。折しも一抱えの木を手にした配達員が到着。武田さん、いそいそとサインをして、「栃木から日本で一番綺麗な木が届いた。」と目尻を下げました。
武田さんは武田製材(有)の3代目。熊野市出身のおじいさんは、小切畑(地名)で山の水路を利用し、「水車製材」を行っていたそうです。これは電気の力を借りず、水の流れを動力に木を挽く仕組みですが、水量に影響されることはなかったのでしょうか。「昔はかなりの数の広葉樹があったから、山もきっと保水力があったんですよ。」
大台町で生まれ育った武田さんには、子どもの頃、秋のスケッチ大会で山一面を「赤で塗り上げた」記憶があるそうです。しかし昭和40年頃、国策の「拡大造林政策」で、日本中の山にスギやヒノキが植えられるようになり、山は次々に彩りを失い、この町の山も年中「緑」に覆われていきました。
武田さんは仕事で一時この町を離れるも、静岡の製材所に勤めた後Uターンします。 当時(昭和26、7年頃)は「南洋材」全盛期。武田製材は商社が東南アジアから輸入した米マツで、エアコン室外機の梱包材を作っていました。熱帯雨林で育ちが良く太いので「歩留まりがいい。」つまり出荷できる部分が多いわけですが、過度な伐採によって生産地の環境が荒れることを知り、人知れず心を痛めてもいました。梱包材が金属やプラスチックに変わった時代もありましたが、今は尾鷲のスギ材を用います。
【「雑木」の価値】
現在のようにいろいろな種類の木を取り扱うようになったのは、近年のこと。長野県伊那市の「有賀建具店」や奈良県吉野郡の「徳田銘木店」を見て、方向性を見出したそうです。
雪の舞い込む作業場の入口には、まるで古い民家の庭先で忘れられていたようなナツミカンやブドウなどが無造作に積まれていました。これらはみな「生まれ変わる」出番待ちです。
「果樹は、1本の木でたくさんの実を支えるでしょ。だから、いい硬さと緻密さと粘りがあって加工するとものすごく綺麗なんです。」ある木は北海道に住む職人の手で、バグパイプの一種であるイーリアン・パイプスという「楽器」に。ある木は現代の住宅事情で置けなくなった大きな仏壇代わりに「手のりサイズの位牌」として。ボールペンの「木軸」としても果樹は人気が高いそうです。
求める人がいれば「雑木」も「名木」になるのですね。「ま、うちの場合は『迷木』だけどね。」と武田さん。その木にどんな価値があるのか、「木が教えてくれるし、お客さんから教えてもらうことも多い」といいます。
だからこそ「面白い人、ものづくりをする人たちにもっと会いたい。もっと移住してきてほしい。」多様性に富む日本の木を使って「新たな文化を生み出してほしい。」といいます。武田さんはめくるめく木の世界のナビゲーターとして、ものづくりをする人との新たな出合いにアンテナをめぐらしています。
【「大変なことが大切なこと」】
武田さんによると、これまで三重県は日本で一番製材所が多く、昭和50年代には三重県内に800軒もあったそうです。ところが現在では200軒程度なのだそう。「もう、絶滅危惧種ですよ。」「儲かっているのに、後継者がいないからと辞めてしまう人もいる。」
惜しむらくは、先人が長い年月をかけて見出してきた「木の特徴や効用」、「使い方の知恵」が失われてしまうこと。そして、そこに付随する「喜び」に気づかなくなること。
木がこんなにある大台町ですら、住まいに木を使わない人も増え、建材として代表的なスギの「鎮静作用」やヒノキの「活性化作用」など、「木の恩恵を受けるチャンスが減っている。」といいます。
「日本の大工道具は世界一なのに」鍛冶屋も減り、手を使わなければいけない時に、できる人が居なくなるのはとても残念なこと。家も道具も手入れしながら、長く使う「そういう、大変なことが大切なこと」と武田さん。大工が現場ごとに頭をひねり、自分で寸法測って、カンナをかけて、ピタッと組み合わせる。そういうことをせずに「大工としての達成感、満足感がなくなってきちゃう。それって面白いのかな?」とつぶやきます。
武田さんは、この4月にオープン予定の「みえ・森林林業アカデミー(三重県)」の各室の扉の取手に、「三重県産の広葉樹を使いたい」との依頼を受けました。準備した30~40種類の木はこれから「“ハツリスト“(向井恭介さん)が木目をつける」のだとか。「削る(はつる)」とは、日本の伝統的な大工道具「ちょうな」を使い、デコボコとした木肌の風合いが美しく楽しい加工の方法です。
「多様な木」と「大工道具」と「伝統の技」のコラボレーションが新たな扉を開く、うん。かっこいい。武田さんはアカデミーが、経験者だけでなくいずれ「新たな志を持った人」を育てる、林業、製材、建築の一貫した学びの場となっていくことを願っています。
【取材班のあとがき】
訪れたのは2月。雪花が散る中応接室に足を踏み入れると、強い木の香りが私たちを出迎えてくれました。ところが武田さん「え、匂いする?」と仰います。毎日居るせいか、部屋の木の香りがわからないそうです。そんな武田さんでも、まだ水分を含む生木の、例えば寒緋桜(カンヒザクラ)を挽くと、辺り一面に香る桜の香りに驚くのだとか。木の一番美しい瞬間を味わえるのも「製材屋の特権だね。」といいます。我々も、生木ではありませんが削っていただき、春の香りをおすそ分けいただきました。贅沢って、こういうことなのかも。
武田製材(有)
WEB : https://beaver-house.com/
住所 : 三重県多気郡大台町江馬158番地
Tel : 0598-76-0023
営業時間 : 9:00~18:00
定休日 : 土・日・祝日
※お越しの方は事前にご予約をお願いします。