
今回のインタビューは、小切畑(こぎりはた)の菓子店「森のお菓子屋スピカ」をご夫婦で営む八木 友紀子(やぎ ゆきこ)さん。
江馬で生まれ、都会での生活を経て、家族でUターンされた八木さんに「お店づくりのこと」、「子育てのこと」、「地元愛」などについてお話いただきました。
【お店づくりのこと】
「森のお菓子屋スピカ」は、宮川沿いの県道31号線に立つお店です。木の扉を開けると、入り口にはちいさなショーウィンドウがあり、絵本に出てきそうなケーキが並んでいます。
吊るし飾りのドライフラワーに目を奪われて視線を移すと、奥は白い壁に立派な梁のある清々しい空間が広がっていて、カフェとしての利用ができるようになっています。この空間をデザインしたのが友紀子さん。借景が美しい窓の外には、向かいの宮川こそ望めないものの、木のフェンスに囲まれた庭と山々と開けた空を眺めることができます。
大台町で店を構えることに不安はなかったのでしょうか。
「今から考えたらポジティブ過ぎたかもしれないけど、勢い、でしたかね。」友紀子さんは、街中と田舎どちらで店を構えるか考えた時に、子育ては田舎でしたいという思いがまずあり、その上で家賃が安く良い物件に巡り合えたことが、決断を後押ししたそうです。伊勢や鳥羽でパティシエとして活躍してきたご主人(勝志(かつし)さん)を見ながら、「田舎でもいいかどうかはパティシエ次第なところもありましたけど。集客のことを考えなければ、とことん田舎にあることで魅力的なロケーションを手に入れることができたんです。」とのこと。
ご結婚前は、名古屋の東急ハンズに勤めていた友紀子さん。「雑貨好き」であり、「大のカフェ好き」でもあるため、店の空間づくりには様々な思いを込めました。飲食店やカフェの少ない地元の建築会社にイメージを的確に伝えるため、入院中だった産院のベッドから、参考画像や指示を送ったこともあるそうです。密なやり取りなくして理想には近づけませんね。
そして、「あまりお金をかけず、あるものを利用する」ということも大切にしたそうです。もともと居酒屋だったというこの店のソファは今では違和感なくカフェに馴染んでいますし、天井を破いて現れた梁はそのままに。店内のテーブルやイスは溶接ができるお父様が、好きで集めていた木材を使って手作りしてくれたのだそうです。「父の仕事なくしてこの雰囲気はでませんでした。」とにっこり。
オープンしてからは厨房をご主人が、接客やディスプレイを友紀子さんが担っています。
店番をするようになると、かつての友人や先生、知人が来店し、地元のつながりを感じたそうです。「大勢で来てくださったと思ったら、その中の一人が見覚えのある顔だったりして」、オープンから6年半、じわじわと地元の方に愛されるお店になっているんですね。
また、SNSを通じて店を紹介すると、自然豊かな環境に惹かれて、ドライブの途中に立ち寄られるお客様も増えました。現在は、地元と遠方のお客様の割合は半々くらいなのだとか。夏場になると観光や帰省した方々で町外のお客様が増えるそうです。
【子育てのこと】
「子育ては、すっごく楽させてもらってます。」と友紀子さん。ご実家が近く、全面的に助けてもらえることや、ご近所さんが皆親切なことが幸いしているそう。子どもたちがいつの間にか近所の庭で遊ばせてもらっていることもあり、どこまで庭かわからないような広々とした自然環境はすばらしいと仰います。とはいえ、カルチャー面では物足りなさも感じるそう。「いろいろ経験させてあげたいけど…せめて、素敵な図書館が欲しいな。」
地域で読み聞かせのボランティアをしているというお母様の存在もあって本は身近な存在。時折娘さんたちを連れて行くという図書館それ自体が、より町の文化力を育むような「素敵な」場所であればいいのに。友紀子さんの「空間への思い」は店の外にも向かっています。
【「地元愛」の話】
友紀子さんいわく「なぜか私、地元愛が強いんですよね。」と。子どもの頃から皆同じように美しい川や山で遊んでいても、高校卒業後は町に戻らない人も多いのですが、「地元が廃れていくのが、寂しかったんでしょうね。」
大学では地域活性化を専攻し、「田舎に人を呼ぶには」という視点でフランスと日本の花のまちづくりを比較したそうです。すると、日本のまちづくりは行政による指導よりも「人のつながりや善意」に頼る部分が大きいことに気付いたそう。花のように「人は呼べるけど利益を生まない事業」は担い手の負担が大きく、継続が難しいと感じたそうです。
それでも「わぁ、楽しそう!ってことに人は集まりますよね。」と友紀子さん。そこに、利益とそれ以上の愉しみがあればなお良し…スピカ店舗前の芝生広場では、年に一度、小さな雑貨のマーケットを開催されます。
お店を始めてから、好きなクラフトマーケットなどに出かけることができなくなっていた友紀子さんは「行けないなら、自分が見たいお店に来てもらおう。」と考えました。町で生まれたつながりをもとに、ご自身の好きな雑貨店や、スタートアップを応援したいお店など、「フィーリングの合うひと」に声をかけて生まれたお楽しみの空間。
ノウハウがあるわけでもない自分が主催するということに多少の戸惑いを覚えつつも、参加店の売り上げがさほど多くもないだろうことに申し訳なさを感じつつも、お客さんからの反響を耳にすると「田舎って、イベントに飢えているな。」やって良かったと、感じるそうです。
ただし、「ほどほどに。」
友紀子さんは、生まれ故郷でもあり、今、少しずつ移住者が増えているという「江馬銀座のゆるさ」が好きだといいます。それはつまり「毎日営業しないスタイル」なのだとか。自分のライフスタイルや「好き」を守りながら、地元のニーズに応えてシゴトをする(ように見える)。その「ほどほど感」に憧れがあるようです。「都会の人って、田舎ってのんびりできるところって思ってると思いますけど、案外忙しいですよね?いくらでも仕事があるから。」
今日も訪れる人の心を癒すカフェ空間を切り盛りしながら、「地域のニーズはどこにあるんだろう?」とついアンテナを立ててしまう友紀子さんには、「ほどほどに。」は無理せず続けるためのおまじないなのかもしれません。
【取材班のあとがき】
星空の美しい大台町に、きらりと光る「スピカ」という名前はぴったり!と思っていたら、お菓子屋スピカの隣には、不時着した宇宙船のようなコンテナが置かれていました。扉を開けてもらうと、中はお父様が作った小さな椅子やテーブルがずらり。「商品」でもあり、いい季節には「屋外用のテーブル席」にもなるのだそう。このお庭で、風を感じながら過ごすのもとっても気持ちがよさそうです。友紀子さんは、ご自分の行動を「なりゆき、いきおい、いつのまにか」などと飾られるけど、居心地の良い場づくりはきっと「計算済み」。これからも無理せず、楽しい場づくり続けていって欲しいな、と期待しています!
森のお菓子屋スピカ
Instagram : morinookashiya_spica
住所 : 三重県多気郡大台町小切畑194番地
Tel : 0598-76-1434
営業時間 : 11:00~18:00
定休日 : 水曜日