Vol.17 田中 大輔 さん

Vol.17 田中 大輔 さん

今回は、唐櫃にお住まいの造形作家、田中大輔(たなかだいすけ) さんです。大台町での制作環境や、暮らしについて詳しくお聞きしました。

【ものづくりとの出会い】

田中さんは、長野県で高校まで過ごし、卒業後は東京でインテリアデザイン設計・施工業の会社に就職。主に、楽器店・音楽教室などの室内空間を作る仕事に7年ほど携わっていました。

東京で暮らしていた時、ふらりと家具を取り扱うインテリアショップを訪れたことがあったそうです。その時、店内にさまざまなデザインの木の家具が並ぶ中、田中さんの目に留まる物がありました。それは、長野県にある工房のもので、異なる素材の組み合わせた家具でした。

その後、東京での仕事を退職し、実家に戻って暮らすことを決めた時、あの時の家具のことを思い出し、工房を訪問してみたいと思ったのだそう。「行ってみたい」という気持ちだけで訪れた工房でしたが、ちょうど金属を使った商品を作れる人を探していたこともあり、「やる気があるなら、鉄でもやってみるか。」と誘われ、田中さんのものづくりがスタートしました。

田中大輔さんのアトリエ風景

【長野での制作活動】

鉄に限らず、木や石、ガラスなど、自然素材を使った商品を作るその工房では、働く人たちが皆、さまざまな素材を手に取り触れて、商品や空間を創り出す環境でした。素材のことを知ることで、さらに鉄という素材の活かし方が分かったのだとか。

師匠から言われた「鉄は硬い粘土だと思ったら、感覚が変わってくるから。」というひと言に、「鉄には、硬くて重いというイメージがあるけれど、人の手を加えることでどんどん変化していく素材なので、何かもっと違う表現がしたい、もっと表現の幅を広げたい。」と感じたそうです。

田中大輔さんのアトリエ風景

田中さんが作品について書かれた文章の中で、「一見無機質で冷たく映る素材が、人の手を通ることで命(温度)を感じるものになり、その温度が人を癒す。」とありました。それを象徴する作品として、代表作の「野花シリーズ」があります。鉄は、硬くて冷たい素材ですが、田中さんの手を通すことで、植物らしい曲線と繊細さが感じられる作品になり、命を感じます。

この作品は、運動不足解消のために始めた朝の散歩で見つけたひとコマを、作品に表現しようと思ったことがきっかけとなっています。「アスファルトの隙間で咲く美しい野花を見つけた時に、そこだけに色がついているような華やかさがあった。大台町での暮らしでは、そんな心動かされる瞬間がたくさんある。」と仰っていました。

田中大輔さんの作品

自分だけのアトリエを構える

町内にあるアトリエ「山鉄(やまがね)」は、ご自宅から車で5分ほどの距離ではありますが、周りに民家がないので、制作する際に大きな音が出ても問題がなく、広々としていて制作にはぴったりの環境。敷地横には川が流れ、周りは山に囲まれている風景も気に入っているところなのだそう。

アトリエの建物は、元々、榊を出荷するための作業場だったそうで水槽がありましたが、作業をしやすくするために、水槽を壊し、スッキリとした広い空間を作ったそうです。冬は寒いので、お手製のストーブや椅子が置かれていました。

現在、野花シリーズの他、ストーブや照明などの暮らしに馴染むものを作りながら、東京で長く携わっていたインテリアデザインの経験も活かし、ショップのリノベーションのお仕事もいただいているそうです。

この土地で「山鉄」を始めて1年も経っていませんが、精力的に活動されている田中さん。今後の活動についてお聞きすると、「今年は、野花シリーズの個展を開催したい。」と仰っていました。さらに、「いつかアトリエの敷地内にスペースを作り、ギャラリーをやりたい。」と、楽しそうに語ってくださいました。

山鉄(やまがね)
instagram : 山鉄(やまがね)

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