今回のインタビューは、柳原にある元坂酒造株式会社の若奥様、元坂麻里(げんさかまり)さんです。
取材の際、普段は客間として使われている和室に通していただきました。廊下の窓からは、丁寧に手入れされたお庭の緑が美しく見渡せ、鳥の囀りが聞こえます。こちらの建物は、元坂さんの旦那様のご実家。築年数は分からないほど昔からあるということですが、静かで落ち着いた柳原の環境の良さが伝わってきます。
【この土地で暮らし始めて】
元々、松阪市でピアノ講師のお仕事をしながら暮らしていた元坂さんですが、旦那様のご実家が、200年以上も続く酒蔵だったこともあり、家業を手伝うために5年ほど前にご実家近くに引っ越してきました。
松阪市は、大台町から車で1時間弱の距離。そんなに遠い町ではありませんが、柳原で暮らし始めてから大きな変化を感じているのだとか。
「大台町内にいると鳥や虫の声がよく聞こえ、松阪で暮らしていた時と耳に入ってくる音が全く違う。
空気がみずみずしくて、深く深呼吸したくなる。」と、元坂さんは、たくさんの自然で囲まれた環境をとても気に入っているそうです。
大台町に引っ越してから、休日は、吉川達也さんが中心となって山を登る「登山部」に参加して、アウトドアを楽しんだり、お子さんたちとご自宅の目の前を流れる宮川で川遊びをしたりと、自然と近い距離で生活していることも、楽しそうにお話ししてくださいました。
また、お子さんと一緒に始めた畑仕事では、収穫できる野菜は少ないけれど、スーパーで売られている野菜がどこから来ているのか、どうやって作られるのかを知ることで、食の有り難さを感じ、学びを深めるきっかけになればと仰っていました。
小さい頃は、ご両親に連れられて三重県内の山を登ったり、宮川で鮎釣りをしたりと、自然の中で遊ぶことが多かったそうで、その体験が今の暮らしにリンクしているようです。
大台町は決して便利とは言えない環境。2人のお子さんを持つ元坂さんの「不便な土地だからこそ、簡単に手に入らない物の有り難さや自然の循環について、暮らしの中で知って欲しい。」と言う言葉から、「この環境を活かして子どもたちにできること」を考えると、ここで暮らすことの魅力が見えてきました。
【お酒造りについて】
ご実家のすぐ隣には、文化2年(1805年)にここで創業された、元坂酒造株式会社さんの酒蔵があります。
元坂酒造さんが長年作り続けている「酒屋八兵衛」は、全国的にも有名な日本酒。原料である酒米は、日本最古の酒米品種であり、この地域の在来種「伊勢錦」を使用しています。酒米作りは、酒蔵のすぐ近くにある自社と契約農家さんの田んぼで、春の田植えから秋の稲刈りまで行い、お酒造りの約2割ほどに使用しています。
また、冬の間行われる仕込みには、ここで取れる山の湧水が使われ、この地域の豊かな自然があってこそ生まれるお酒造りと言えます。
一年のうちで一番大切な冬のお酒造りの作業が始まると、夜中も数時間毎に起きて作業を行うお酒中心の生活になります。元坂さんは、今ままで関わりのなかったお酒造りの仕事を間近で見て、こんなに手間暇かけて造られたお酒を、もっとたくさんの方に知って欲しいという想いを強く持ったそうです。
そんな「酒屋八兵衛」のおいしさについてお聞きすると、「素材そのものの味わいが楽しめるやさしい口当たりなので、日常に癒しを与えてくれるお酒。特別な時に飲むというよりも、毎日の食事と一緒に楽しんでいただきたいお酒。」と仰っていました。
そんな風に、今ではすっかり「酒屋八兵衛」に魅了されている元坂さんですが、以前はお酒が全く飲めませんでした。ところが、毎日おいしそうに晩酌するご主人を見ていて、少し飲んでみたところ、そのおいしさに感動。今まで飲めなかったお酒が好きになったそうです。
【これからの課題】
柳原の辺りには休耕田がたくさんあり、その活用方法が課題になっています。
最近は、休耕田にソーラーパネルが設置することが多くなってきていますが、田んぼとして活用できるのが一番良いはず。休耕田を酒米の田んぼとして、もっと利用できるようになれたらと考えているそうです。
また、元坂さんがお仕事の中で一番嬉しい事は、お客様から届く「おいしい」の声や、何度もリピートして購入してくださること。今は、こちらでの直売以外だと、お客様のそういった声を直接聞く機会がないので、コロナが落ち着いたら以前開催していた酒蔵見学(*1)や試飲会も再開し、直接お客様の声を聞かせていただいたり、自社のお酒の魅力を伝えていきたいと考えているのだとか。そんなイベントが開催される日が楽しみですね。
※掲載写真の一部は、元坂さんにご協力いただいています。
※1 現在、酒蔵の一般公開は行っておりません。
元坂酒造株式会社
住所 : 三重県多気郡大台町柳原346-2