Vol.1 印藤 幸恵 さん

Vol.1 印藤 幸恵 さん

今回のインタビユーは、愛知県小牧市から20年ほど前に、大台町へ移住された印藤幸恵(いんとう ゆきえ)さん。

「これ見てください。」と、まず見せてくださったのは、大切に保管されている小学生からのお礼状の束でした。2009年から2020年11月までの約10年間に、陶芸教室を行なった小学校から送られたもので、「これは、私のお宝なの。」と、とても嬉しそうな表情でした。

お礼状

そんな印藤さんは、現在、大台町で「幸翔窯(こうしょうがま)」を開き、ご自身の作品制作の他、小さな子どもから子育て中のお母さん、そしてお年寄りまで、誰でも気軽で簡単にできる陶芸を教えています。

その活動先は、大台町内をはじめ、三重県内の小学校でのクラブ活動や、授業の他、子育て支援グループまで。とにかく、どんな人にも土を触って、楽しい時間を過ごして欲しいという考えから、「簡単で失敗しない陶芸」を基本に活動されています。

印藤 幸恵さん

【自分らしい陶芸との出会い】

元々、自分の洋服やオーダーメイド服の制作をしていたそうですが、軽い気持ちで陶芸教室に参加したことがきっかけで、陶芸の魅力にすっかりハマってしまったんだとか。

その陶芸教室では、轆轤を使った制作に気が乗らなかったため、様々な色・柄の小さな布と布を合わせて作る「パッチワーク」の要領で、種類の違う土で模様を作る作品に挑戦したところ、布とは違う土の面白さに目覚めたそうです。

陶器模様

しかし、土の色だけでは色に幅が出ないため、もっと様々な色を出せないか研究・実験を重ね、土に顔料を加えることで、今のような色鮮やかな陶器が作れる様になりました。

その後も、異なる色の粘土を合わせて、模様を作る印藤さんのスタイルに近い「練りこみ技法」にヒントを得て、どんどんオリジナル作品を生み出され、ご自身の作陶スタイルを、色粘土で模様を入れ、計算して形を作り上げる「練り上げ技法」を確立。日本工芸会にも認められ、東海伝統工芸展で受賞されるまでになりました。

瀧原宮

【身近な自然との関係】

いつも身近にある雄大な自然が、心を豊かにしてくれ、制作にアイディアを与えてくれると仰る印藤さんのお気に入りの場所は、旧宮川村にある滝や山の風景も好きだけれど、すぐお隣の大紀町にある「瀧原宮」。

静かで、参道の玉砂利を歩いていると心が洗われ、「ここで、陶芸を続けなさい。」と言われているような気持ちになるそうで、印藤さんのとても大切な場所となっています。

「きっとこの豊かな自然の中で暮らしていなかったら、こんなに様々な模様が生まれていなかったと思います。」とも仰っていて、それは、2003年にまちかど博物館を始めたことにも、大きく関係しているようです。

博物館

【まちかど博物館を始めるということ】

三重県内に400ヶ所以上ある「まちかど博物館」は、伝統工芸品や、貴重なコレクションなどを展示する個人の博物館です。印藤さんも、県の認定を受けて、「熊野路・練り上げ陶房 幸翔窯」として、ご自宅の一室で作品を展示・販売されています。

博物館を運営することを決めたのは、この大台町に、練り上げ技法を使った陶芸を始めた人が居たことを、先の未来へ残したいという思いがあったから。

そして、この場所で博物館をするなら、どんな作品を展示するか考えた時、三重県の文化や、自分の暮らす大台町の風景をモチーフにした陶器を作ることを決め、そこから、松阪木綿の伝統的な模様を入れ込んだ藍染めシリーズや、区画整備されていない時代の大台町の田んぼの風景が、モチーフになった「畔路文(はんろもん)」などが生まれました。

半路文

「まちかど博物館」は、それぞれの博物館の館長さんからお話を聞くことができるのも、魅力の一つです。

博物館に飾られているどの作品にも、印藤さんが未来に残したい地元の文化や風景のメッセージが込められています。来館される方は、作品の模様や練り上げについて、たっぷりおしゃべりを楽しんでいただきたいです。この土地の魅力をたくさんお話してくださるはず。

工房

【新たな夢】

今、印藤さんが新たに大切にしている事は、地元のためにできること。みんなが楽しめて、喜んでくださることを続けていくことが、印藤さんの夢にもなっているということでした。

こんな風に考えられるようになったのは、よく出掛けていた大台町の美しい川や森が、2004年の台風で大変な被害に遭い、一瞬でその風景が変わってしまったのを、目の当たりにしたことがきっかけになっています。その体験から、自分の幸せだけではなく、他の人に対しても、いつも優しくしていたいという気持ちが、芽生えたそうです。

「楽しみに待っていてくれる人のために、健康でずっと陶芸を続けていきたいと思っているんです。」と、力強く語ってくださいました。

干支

いろんな作家とのコラボ展として、毎年続けている「みんなと笑顔展」や、心が和む様な優しい表情の干支シリーズの販売も、楽しみに待っていてくれる人たちのことを思い、続けていることの一つです。

練り上げ技術や陶芸体験にご興味ある方は、ぜひ幸翔窯にご連絡してみてください。きっと、楽しい時間になりますよ。

熊野路・練り上げ陶房 幸翔窯
住所 : 多気郡大台町佐原543-1
Tel : 0598-82-2544
Email : intou@ma.mctv.ne.jp
HP : http://www.ma.mctv.ne.jp/~intou/

Back to top