Vol.40 杉山 真実 さん

Vol.40 杉山 真実 さん

今回のインタビューは、清滝(きよたき)にてご夫婦でズングリファームを営まれている杉山 真実(すぎやま まみ)さんです。大台町に移り住まれて約1年。ようやく動き出した仕事と大台での暮らし。あちらこちらと脱線するインタビューは、はちきれそうな“やりたいこと”の証。エネルギーに溢れた笑顔がありました。

【新天地大台町へ】

移住というと街から田舎へというパターンが多そうですが、真実さんたちが以前住んでいた所は限界集落を越えて行く末がもうすぐそこな集落。移住当初の男手は92歳のおじいちゃんの次は夫の雄作さんだったそうです。
清滝より田舎だったという京都府北部丹後半島の山あいでお米や野菜を育て、農作物やその加工品を販売してきました。

ズングリファームの田んぼ

日本昔話に出てくるような立派な萱葺き屋根の古民家での暮らし。しかし、ご家庭の事情により、雄作さんの実家の伊勢の近くで物件を探し、条件に合ったこの地が選ばれました。
自然豊かな環境は絶対条件、お米が作れる農地があること、すぐ住める設備の家、農機具のための納屋、できれば離れがあるといい。大台町の空き家バンクを介して、入居したのが今のお住まいです。

杉山真実さん

「もっと山奥でも良かった(笑)」
夫婦2人ならもっと山深い地域でも良かったという真実さんですが、3才になる息子さんの子育てを考えると保育園などが近く、生活しやすい地区で良かったと笑います。
以前は散歩に出かけないと人に会えなかったそうですが、今は隣近所が近く、周りの人たちがみんなで子どもを可愛がってくれます。近所のおばあちゃんが小さい子が居てくれるから長生きして良かったと話してくれたことがあり、「それを聞いた時、もう涙が出るくらい嬉しくて…そんな風に言ってもらえて本当に良かったなって」
このおばあちゃん以外にも、息子さん用にお菓子を用意してくれている人、散歩中に出会えば野菜をくれる人など、すっかり地域に溶け込んでいます。

【自給自足を目指して】

真実さんたちは、丹後の地で約7年間農業を続けられてきました。
東日本大震災以来、都会の生活より自らの手で食べるものを作り暮らす方が強い時代だと感じるようになったご夫妻。
自分たちで食べる分だけでもお米を作りたいと考え、前出の92歳のおじいちゃんに田んぼを1反貸して欲しいと頼みにいったところ、「1反じゃ話にならん!5反しろ!」といきなり予定していたより広い田んぼの管理をすることに。
雄作さんに農業の経験はあったものの、お米作りを最初から最後まで通して行うことは初めてのこと。また、無農薬、化学肥料なしで育てることを選択した田んぼ仕事。「最初はよく分かってなくて草だらけになっちゃって(笑) でもまあ5反したんで自分たちで消費できないくらいは作れたんで、それを販売しようかと」
ズングリファームの始まりでした。

ズングリファーム杉山真実さん一家

引っ越しが終わり、家の近くで借りられる田んぼの目途も立ち、今年からいよいよお米作り再開です。
しかし、米作りは土地が変われば作り方も大変さもガラリと変わるそうで。
「山陰は日があまり照らないからすごい高くはざ掛けしないと乾かんかったけど、こっちはすごい晴れてるし…。」
周りの先輩方に話を聞きながら手探りのスタートのようです。

【工房から生まれるもの】

真実さんには飲食業の経験があり、収穫したお米を製粉して卵や乳製品不使用のおやつ、お餅、お弁当など様々な加工品の製造販売も手掛けてきました。

ズングリファームが製造販売している商品

ご自宅の離れには真新しいシルバーの厨房設備が整えられ、ここでもお菓子作りが既にリスタート。不定期での通販、マルシェなどのイベントに出店も始めています。

卵アレルギーの友達がきっかけで卵や乳製品を使わないおやつを作っていましたが、真実さん自身にアレルギーがあったり、厳格なヴィーガンという訳ではないので、今後は普通のお菓子も作っていきたいそうです。
お料理も大好きなので、まとまった数であれば予約制でお弁当も受け付けています。

店舗を構えるつもりはないのか尋ねると、お住まいや工房では駐車場もあまりないので難しいと考えている一方、
「ゲストを呼んで料理教室やりたいなぁとか、染め物やってる人とか作り手の友達が多いから」とワークショップ開催に意欲的です。

お菓子がどこで買えるか問い合わせも来るそうで、「月に1回販売会やりたいなぁ」とか。
さらには、残していきたい伝統的な製法のお醤油など「自分の好きな調味料だったり普段使っているものを販売したりもしたいけど」とやりたいことは溢れてきます。
定食屋やりたいな、民泊やりたいな、でも忙しすぎると生活が乱れて夫婦喧嘩も多くなるしと苦笑い。
ズングリファームのショップカードに印刷されているスローガンは“自然に寄り添いながら日々の暮らしを大切に”です。

ズングリファームのショップカード

【守りたいもの】

三重に引っ越すために住まいを探す中驚いたのは、あちらこちらに設置された太陽光パネルの多さでした。
「ここいいなって思っても目の前にパネルがあって諦めた物件がいっぱいあって…。」
何とかこの豊かな自然を守りたい、子どもたちにキレイな自然を残したい、とできる限り循環型生活を心掛けていますが、一方で電気を使わない訳にはいかないし、「土地を手放す人の気持ちも分からんでもないし」と、自分たちと異なる意見を完全に否定する訳ではなく、柔らかく理解を示します。

農業についても同様で、「お米や野菜を作ることは農薬使っててもすごく大変なことやから…それがだめって訳じゃなくて…そうやって作ってくれる人がおらんと消費者は困るし…」と農薬や化学肥料を完全否定もしていません。
田畑で働かなくては耕作放棄地が増え、人が山に入らないようになれば山は荒れ、山が荒れれば海が貧しくなることに繋がっていく。
「全て循環してるから…」

杉山雄作さんと息子のかんたくん

コロナ禍で見直された田舎の良さに共感する若い世代にもっと移り住んでもらって、せっかくのこの自然を何とか守りたいと考えています。

「そうだ!私、いつか気球も飛ばしたくって」
丹後での仲間で気球を飛ばすイベントを手掛けている方がいらっしゃるそうで。
大好きだった丹後の地、丹後の人々と育んだような輪。
こちらへ移られてから仲良くなった人達の中には、「お話会やった人もおるし、キャンドル作りのワークショップできる人もおるし、もうこれでマルシェできるやん」と目を輝かせます。

縁が縁をつないでネットワークが出来上がっていく。
楽しいことをやっていれば、盛り上がっていれば人は集まってくる。
この自然を守るための地域の活性化。
真実さんは熱い想いに満ち溢れています。

丹後で開催されている気球を飛ばすイベントの様子

ズングリファーム
instagram : zungurifarm

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