Vol.39 岡島 一登 さん

Vol.39 岡島 一登 さん

今回紹介するのは、大台町の老舗薬局、勝栄堂(しょうえいどう)薬局を2022年4月に引き継いだ薬剤師の岡島一登(おかじま かずと)さんです。勝栄堂薬局は、平成に入ってから現在の大台町佐原(さわら)に店舗を移設したそうで、その前は旧宮川村にあったといいます。創業から50年以上経っているそうですが、当時の詳細は定かではありません。

岡島さんは松阪市に生まれ、父の実家がある大台町新田(しんでん)には幼少期から何度も遊びに来ていました。ご実家は旅館を営んでいて、高速道路開通のための工事関係者が多く利用されていたため、孫の目線から見ても絶えずお客さんがいて、祖父母は仕事がいつも忙しそうだったと幼い頃の印象を話してくれました。「お客さんにいつも感謝されていたのですごいなと思っていた」同級生の中でも珍しい職業に就いていたおじいさん、おばあさんが誇らしかったのではないでしょうか。現在、旅館はお父さんに代替わりしています。

【薬剤師になったきっかけ】

さて、松阪高等学校時代にサッカー部に所属していた岡島さん。2年生の時に、部活の練習で手術が必要となる大きなケガを負ってしまいます。入院中、病室にあるスタッフが話をしに来たことで初めて知ったのが薬剤師という仕事でした。「当時マイナーだったから、こんな仕事があるのかと調べてみたら、面白そうだと思いました」入院をきっかけに芽生えた医療関係の仕事への興味から、薬剤師を目指すことになりました。

実家を出て、大阪の近畿大学薬学部に進学。初めて都会に行き、こんなに人が多いのかとびっくりしたそうです。岡島さんは東京に本社のある製薬会社に就職し、大阪の支社に配属されました。「学生時代は都会が楽しかったけれど、働き始めると三重は落ち着いていてゆっくりできていいなと思った」最初の3年半は大阪で働き、その後三重に配属されUターンします。薬剤師の資格と製薬会社勤務の経験を活かして県の職員に転職し、津保健所での勤務を経て、四日市市の三重県立総合医療センターに10年以上勤務されました。

勝栄堂薬局の店内の様子

【大台町の老舗薬局を引き継いだ理由】

岡島さんに、大台町で働くことを決めた経緯を伺いました。「60~65歳まで働くとして、半分くらいの年までサラリーマンとして勤め、残りの半分は自分で経営したいと考えていました。でも、まさか大台町で開業するとは想像すらしていなかった。人づてに薬剤師の後継者を探しているという話を聞いたときに、こんな薬局が大台町にあるのかと興味を持ったのが始まりです」
高齢により店を閉めるつもりだったという先代。このことが岡島さんの耳に入ったのは運命だったのでしょう。「辞めるとなると、処分するのも大変。通ってくれていた地域のお客さん、患者さんも困る。先代からしても全て引き渡せたらスムーズですしね」
失礼ながら、人口が9000人を切る町で、仕事として成り立つという確信はあったのでしょうか。「人口減少エリアで現実的にやっていけるかと考えましたが、地域に根差した薬局がなくなることで不便になる高齢の方が増えることを防ぎたいと思い、勝栄堂薬局を引き継ぐ決断をしました」

岡島 さんが作る漢方薬

【漢方薬を作る】

2021年の一年間、先代から岡島さんに引き継ぎが行われました。1年という長い引継ぎ期間が設けられたのには理由があります。「病院に勤めていたので、病院で出す薬のことはよく分かっています。しかし、一般的に薬剤師は漢方薬には詳しくない」
勝栄堂薬局の一番の特徴が、お店の中で薬を作る「薬局製造業」の許可を取り、患者さん一人ひとりに合わせた漢方薬を作っているところです。「いわゆるテーラーメイドですね。患者さんに応じて、許可された薬を調合して作る。こんな薬局はあまりないと思います。それをやっていると聞いて、勉強になると思い魅力に感じました」長期間の引継ぎが必要だったのは、薬局製造業として漢方薬について学ぶためだったのですね。
「私は以前から漢方に興味があったので勉強してはいたんですが、実際の現場の知識とは全く違っていました。患者さんの体質、これを『証(しょう)』と言いますが、証を把握し相談しながら薬を作ります。風邪だからこの薬というわけにはいきません。患者さんと十分に話すことが重要」

勝栄堂薬局で販売されている漢方薬

【病院から離れた面調剤】

薬局といえば、病院のすぐ近くにあると思い浮かべる方が多いでしょう。その薬局を、門前薬局と言います。この場合、近くの医院やクリニックの処方が9割以上。一方、病院から距離のある立地に店を構える薬局を「面調剤」と呼ぶそうです。勝栄堂薬局は、近隣では珍しい個人経営の面調剤。
「受付処方せんは、松阪市や大台町の病院、クリニックと多岐にわたります。基本的に病院で診てもらったついでにと門前薬局に処方せんを持っていく方がほとんどですが、私は患者さん自らが選べる薬局をやりたかった」
門前薬局との差別化として努力していることを伺いました。「処方せんをFAXで送っていただき、患者さんが移動中に準備することでなるべくお待たせしないこと。そして、一つの病院で処方された薬以外の他の薬も持ってきてくれることが多々あるので、あらゆる面で注意を払いながら話を聞いていきます。また、日常的な体調についても丁寧に聞いてサポートしていくというところです」

岡島 一登(おかじま かずと)さん

【独立から2年】

先代からは、薬に関する知識や技術のみならず、ここに通っているお客様への引継ぎももちろんありました。お客様からはどんな反応があったのでしょうか。「何も言わずに受け入れてくれる方が多かったんですが、中には『継いでもらえて助かる』と言ってくれた人もいました」
公務員としての四日市の病院での勤めを退職し、大台町で独立したいと話したときのご家族の声はというと――「ほんとなん?が第一声。妻にはびっくりされました。その後は前向きに応援してくれて、妻もここで一緒に働いてくれています」

「四日市では、中間の年齢になってきて、薬剤師としての仕事以外の業務が多くなり、患者さんと触れる仕事ではなくなりました。大台町に来てからは、絶えずお客様と話しているのですごく楽しい」
大台町に住む人は、農作業をしたり外に出て様々な作業に取り組んだりしているためか、気持ちが若い人ばかりだと感じると岡島さんは話します。
最後に、今後の目標についてお話しいただきました。
「地域のお客様を増やしたい。来ていただくことで、地域貢献できます。日々、来て良かったと思ってもらうことを積み重ねていきます」

調合の漢方も習得され、人の役に立ちたいという強い思いが患者さんに寄り添う真摯な姿勢から伝わってきます。「厳選した商品をご相談により選んでいただけます。FAXなどで処方せんを事前にお送りいただければ移動中にお作りするのでご活用ください」と岡島さん。50年以上続く薬局を引き継ぐという大きな挑戦を応援しつつ、あなたの不調も相談してみてはいかがでしょうか。

勝栄堂薬局
HP : https://www.shoueido.com/ 
住所 : 三重県多気郡大台町佐原525-1 
Tel : 0598-82-3153 
営業時間 : 9:00~18:00 
定休日 : 土曜・日曜

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