
今回のインタビューは大台町下楠(しもくす)区にてケーキ屋を営む神戸 麻衣(かんべ まい)さんです。
保育園の頃から夢はケーキ屋さんだった麻衣さんは弱冠21歳の時に独立開業。芯の強さと行動力に年齢は関係ありませんでした。
【夢の始まり】
インタビューに伺うと旧道沿いにそびえる雰囲気のある古い木造建築。その裏手に厨房兼ケーキの販売窓口があります。
大台町内に数多く存在する空き家、空き店舗、空き地。これらを新しく楽しく活用すべく立ち上げられた団体、AWA(空き家わっけんあるんやに)。町の空き家バンクの管理や移住相談窓口、リノベーションワークショップなどイベント企画、レンタルスペース運営など活動は多岐に渡ります。
麻衣さんが独立を考え、自宅の離れを改装しようか、既存の食品加工施設を使えないか、など思案していた時、空き家をリフォームすることも視野に入れていたため、AWAに相談。
AWA側でも熊野古道沿いの古い郵便舎を残し生かすプロジェクトに食品加工施設を組み込んでいました。
施設完成後、そこに入居してオープンしたのが「a bientot(アビアント)」。
麻衣さんのお店です。
【「夢のケーキ屋さん」になるまで】
「将来の夢はケーキ屋さん!」と言って一体どれだけの人が実現するのでしょう。
麻衣さんは保育園の時、たくさんの園児たちと同じようにケーキ屋さんを夢見ていました。
母親と家でケーキやクッキーを作るのが好きだった子ども時代。やがて町内の生涯学習講座で相可高校食物調理科の先生と生徒たちが教えに来てくれる製菓教室に参加します。小学生だった麻衣さんにとってテキパキと手を動かす高校生に憧れを抱き、「かっこいいなぁ。ああいうお兄さんお姉さんになりたいなぁ」という願望が植え付けられた瞬間でした。
志望通り、相可高校食物調理科へ進学。部活動は他のスポーツも気になりつつも製菓部と調理部の両方に在籍。厳しそうなイメージの食物調理科の高校生活について伺うと、「楽しかった!」と即答。
「まごの店のデザートを作らせてもらったりとか、たまにコース料理とかやっててそのデザートをやらせてもらったりとかしてました」と忙しくも充実の学生生活を振り返ります。
就職を考え始めた頃、三重県を出て都市部のお店やホテルなどで経験を積む選択肢もありましたが、近場に「癒・食・知」を軸とした商業複合施設VISONがオープン。そこに開店した有名パティシエ監修のパティスリー「コンフィチュールH」へ入り、キャリアの第一歩を踏み出します。
社会人になってからの厨房は厳しい現場でしたが、高校時代の部活動で鍛えられた麻衣さんはそれをしかと受け止めます。叱責されて同僚が落ち込んでいても、
「調理部で村林先生がいたからやっぱしごかれる。びしばし言われて強くなれた部分があったから、周りの子らがなんでこんなんで怒られるんやろってめっちゃメンタルやられてたんですけど、自分はそんな…まぁしょうがないよ。それぐらい仕事やし怒られるよって感じで乗り越えられたって感じです」
子どもの頃にはたくさんの習い事をこなし、中でも剣道や茶道を長く続けた麻衣さんには、古き良き厳しさ、礼儀作法、上下関係を重んじる文化への理解が備わっていたようです。
次に務めたのはハンバーガーとドーナツの店「ブーケ」。こちらでも最初は故郷近くの宮川を臨む店舗で働いていましたが、パティシエ経験の腕を買われ、ドーナツの生地作りの部署や同系列の店でかき氷を出す手伝いなど、色々な場所を転々としながら経験を積んでいきます。
そして、自分でお店を立ち上げたいという気持ちが満ち、勤めながら月1回程度の営業で「a bientot」が始まりました。
【ひとりで切り盛りするということ】
お店を始めて半年ほど経過。
営業日には母が手伝いに来てくれるものの、基本的に仕入れ、製造から販売まで全て一人は大変な仕事です。苦労していることを伺うと、しばらく考えて意外な返答が。
「一人やから大変やけどそこまで…。けどやっぱできる範囲が狭まっちゃうから、もう少ししたいなぁと思ってもちょっとできやんのが悲しい…」
一人だと気楽ではあるができないことも多くなる。
自身のキャパシティを把握して自分のペースで自分の作りたいものをひとつづつ丁寧に作っています。
「やっぱシンプルに商品買ってくれて『これおいしかったよ~』って言ってくれると作っとって良かったなって」
感想を聞くと嬉しいと麻衣さんの顔が綻びます。
「『また来るわ~』とかそういう感じ。a bientotってフランス語でまたねっていう意味なんです」
そう言ってくれたお客様のためにまた頑張れる、励みになる言葉です。
【趣味が仕事に】
カフェ巡りが趣味という麻衣さん。休日は伊賀や志摩など少し遠出して気になるカフェへドライブし、悠々とひとり時間を満喫します。
惹かれるのはシンプルで木を使ったナチュラルな内装で落ち着いた雰囲気のカフェ。そしてやはりスイーツを食べるのも好き。注文するのは一番好きないちごのショートケーキ。
「いちごショートと何か(笑)」とつい2個頼んでしまうそう。
「何か勝手なアレですけど、ショートケーキが美味しい店って他のケーキも美味しいかなみたいな…」
結局、仕事の目線を捨てきれない休日。他に趣味を問うても今は特にない模様。
好きなことが仕事になってしまうと辛くなることもよくあることだが、
「全然です!楽しいです!」ときっぱり。
なんとフレッシュでエネルギーに満ちた表情でしょう。
幼い頃から夢だったケーキ屋さん。
「作る工程が好きです。計量とかはそんない好きじゃないんですけど…。スポンジ焼くのは好きなんです!膨らんでくるのが好き」と笑顔。
ひとつひとつの工程を誠実に丁寧に積み上げていく麻衣さん。一人黙々と作業する中で、
「『ナッペ※めっちゃキレイやん!今日ナッペキレイにできたで!』ってひとりでささやいてます(笑)」とキュートな一面も覗かせてくれます。
※製菓用語でケーキ等にクリームを塗る作業
【夢は続く】
現在は基本的に土日営業。イベント出店のため店舗は臨時休業の場合もあります。また平日でも誕生日ケーキやまとまった数の注文は受け付けています。
田舎の静かな雰囲気が落ち着く、と地元でキャリアを重ねてきてついに独立したお店。
そしてまだまだ夢は続きます。
麻衣さんは自身が居心地が良いと思えるカフェを併設したいと考えています。
「a bientot」はまだ始まったばかり。
お客様や周りの支えてくれている方に感謝を忘れず、お客様の求めるケーキ屋を目指して進んでいきます。
今はひとりで手が回らない状態ですが、ここまで最短距離で自分の想いを実現してきた意志の強さと行動力はこれからも麻衣さんを動かし、そして、いづれ素敵なパティスリー&カフェが生まれることでしょう。
a bientot(アビアント)
instagram : a bientot(アビアント)