Vol.64 田中 菜穂 さん

Vol.64 田中 菜穂 さん

今回のインタビューは、大台町に今年4月に開校した広域通信制のみえ大台おおぞら高等学校の教員の田中 菜穂(たなか なほ)さんです。
現在は育休中。見知らぬ土地で始まった初めての子育て。
持ち前の明るさとフレンドリーさでこの地域をどんどん開拓しています。

【田舎へ帰りたい】

埼玉で生まれ育ち、東京で学生生活を送った菜穂さん。
ここへ越してくる前は、同じくおおぞら高校に勤める夫と共に東京で暮らしていました。
おおぞら高校が三重県に設立されることになり、夫が赴任することになった時、菜穂さんは「行く行くー!」と大喜び。便利で楽しい都会には未練なく、「菜穂さんの田舎へ帰りたい!」という願いが叶った瞬間でした。
実は6年もの間、故郷を遠く離れた屋久島本校で勤務していた菜穂さん。すっかり田舎に馴染んでいたのです。
転勤準備が始まった頃、身籠っていることが分かり、出産、引っ越しをバタバタとこなして大台町へやって来ました。

【離島で先生しませんか?】

学生時代はアルバイトや母校の陸上部で外部インストラクターとして子どもたちに陸上を教えるなど、充実した日々を過ごしました。やがて迎えた就職活動中のある日、とある高校のキャッチコピーに心ひかれます。
「離島で先生しませんか?」
それは、おおぞら高校の教員募集を呼びかけるものでした。
おおぞら高校の生徒たちは年に1度、屋久島へのスクーリングが必須なのです。
「楽しそうやな!」と屋久島がどんなに東京から遠いか正確に把握しないまま、採用されます。小さな頃から自然は好きで、家族でアウトドアに出かけていたため、周りから心配されつつも、「山登り、海、いいな、楽しそう!」と離島ライフが始まりました。

おおぞら高校屋久島スクーリング

 

先生という仕事で一番嬉しいことを伺うと、「言い方良くないかもしれないですけど、手放せた時ですかね」と笑います。
思春期の生徒たちが抱える悩みや複雑な思い、喧嘩や涙も。
「自分としては手放せて、彼女たち彼ら自身としてはできることが増えてった時っていうのはすごい嬉しいなぁって思います」
生徒たちを受け持ったら、自分は先導して走るのでなく少し後ろから見守り、躓いたらフォローに入るという支え方。伴走しながら距離が開いていった時、「あ~もうそんなにできちゃう?もういらない?私」って思う時が寂しいような嬉しいような瞬間。
高校3年生になれば18歳で成人になる生徒たち。成長し、大人の自覚を持ち始めるのを見ると、子どもの成長ってすごい!と実感するそうです。

就職したての頃は年齢的に保護者より生徒の気持ちの方がよく分かったものの、あくまで中立を保ち、親世代の話もよく聞き、信頼を築いていきました。
親御さんたちの想いに触れると、自身の学生時代を振り返って自分の親に謝らなければと思ったことも。
「親に感謝するようになりましたね(笑)」

田中 菜穂(田中 なほ)さん

夫も同じ職場のため、仕事で悩んだ時はすぐ相談。職場ではもちろん、帰宅しても夕飯の時も仕事の話ばかりしていることがよくあるという田中夫妻。
大切なお子さんをお預かりしたからには責任を持って卒業までしっかりサポート。そんな先生という仕事に全力な菜穂さん。
「好きなんだなぁ、って思います。自分でも」

屋久島の生活

屋久島

【田舎の生活】

屋久島勤務から東京へ戻ると、ホームとも言える都会に違和感を覚え始めます。
場所によってそれぞれの常識があり、正しいも悪いも優劣もありませんが、マンションですれ違う人に挨拶しても返してもらえないことに驚きました。
「向こう(屋久島)だとごみ捨てとかですれ違うと挨拶するし、小学生とかでも何度か会ってたら『何してるの~?』って話かけてくれるし」
田舎の距離の近さに慣れてしまい、都会の普通を忘れていたのです。
近所付き合いが煩わしいと思う人もいるだろうけど、菜穂さん自身はとても居心地が良いときっぱり。そして、屋久島へ帰りたいと思っている内に夫に下った辞令は大台町でした。
大自然の中へ再び!と喜んだ菜穂さん。
「でも何か田舎で農業したいとかっていうのは全然なくてただのんびりしたいだけなんですけど(笑)」

田中 菜穂(田中 なほ)さん

大台町へ越してきてまだ数か月ですが、東京から赤ちゃんを連れてきた新米ママにご近所さんたちはとても親切です。
スーパーへ買い物に出かければ知らない人から「赤ちゃんかわいいなぁ」と話しかけられ、下の段の商品を取ろうとすれば、「とったるとったる~。抱っこ紐大変よな~」と大先輩が手を貸してくれる温かな雰囲気に包まれています。

【子育て支援センター】

「週1でセンターのイベントに申し込むくらいの感じで。自分の息抜きも…」と菜穂さんは今やセンターのヘビーユーザー。
広々としたプレールームには、ボールプールやトランポリン、小さなおもちゃもたくさん置いてあり、赤ちゃんたちが次から次へと手に取って遊ぶことができます。センターやママたちの子育てサークルが主催のイベントも開催。ベビーマッサージやヨガ、アート活動や味噌作りなど様々です。
プレールームでは職員の方が一緒に遊んでくれたり、世間話の中で子育てのちょっとした疑問などを相談できたり、ママ同士の交流などコミュニケーションの場としても機能しています。

大台町子育て支援センター

引っ越してきた当初は、夫が仕事に出れば育児はワンオペ。家に居がちだったそうですが、発育測定が出かけるきっかけに。町の子育て支援事業のひとつで、月に一度決まった時間に身長や体重、胸囲などを測ってくれ、保健師さんや助産師さん栄養士さんなどに気軽に相談できる機会です。
赤ちゃんとママたちが集まってくるため、ママ友ができたりする貴重な交流の場でした。
「本当に有難いですね。人もつなげて下さるので…」
赤ちゃん人口が少ないため、センターの職員はおおよそのママたちを把握しています。
菜穂さんは1歳から園に預けるつもりでしたが、周りは3歳からの入園が多く、「入れる人誰もいない…」とポロっと言ったら「ひとりいるよ!」と先輩ママを紹介してくれたそうです。
見知らぬ土地で初めての子育ての菜穂さんにとって強い味方です。

【人が好き】

AIに尋ねるのは便利だけれど、やはり人の話が一番信頼できるし面白い。
カフェ巡りが趣味の菜穂さんは近所のお店を調べては訪れ、店主さんとお喋り。仲良くなって地域のことを教えてもらったりするそうです。
桜の時期には花見で出会った人に、他に良い花見スポットがないか尋ねたり、ご近所さんと仲良く付き合い、回覧板を回すことすら楽しんでいる菜穂さんは、この田舎暮らしが自分に「すごく合ってるんだろうなー」と言います。

子育てを楽しむ田中 菜穂(田中 なほ)さん

今は授乳中なのでお休みしていますが、飲みニケーションも大得意。
学生の頃は、通学定期が池袋、新宿、原宿、渋谷を通るルートだったため、当時、「飲み屋無敵定期」と呼んで青春を謳歌。もう少し大人になってからはビールが好きで醸造所をハシゴ。居酒屋街の店主や常連さんとカウンターで仲良くなるなど、人との出会いを楽しんできました。

ビールが好きな田中 菜穂(田中 なほ)さん

今、菜穂さんが目論んでいるのは屋久島への里帰り旅行。お世話になっていた人たちに赤ちゃんを会わせてあげたいそう。そして、おおぞら高校ネットワークで全国各地に広がる同僚の先生たちの所へ人巡り旅行です。

【大台の景色の中で】

この町で一番気に入っている場所を伺うと、ちょっと意外な答えが返ってきました。
「観光地とかじゃなくていいですか?」と前置きして、「あの坂道の所から見る景色、好きなんですよね~」と。
それは、名前のある公園やフォレストピアなどの施設ではなく、下三瀬地区の峠だそうです。
地元の人たちからは坂瀬と呼ばれる場所。
峠から見渡せるのは大台山系の山並みと三瀬谷のまち。遠くに青く霞み、重なり合い、熊野や吉野の地へと広がる深淵なる森の山々。坂道を下った先の谷あいには、緑に抱かれるように建物が集まっているのが見えます。
美しい自然と人が織りなす風景。
ここが今の菜穂さんのフィールド。
ハイキングも屋久島でライセンスを取得したダイビングもSUPも好き。川遊びも楽しみ。
これからここでやりたいことが溢れています。

坂瀬峠からみる大台町の景色

written by yuki

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