今回のインタビューは、江馬(えま)にて香とハーブのお店「かおりむすび」を営む千葉 結香(ちば ゆか)さんです。
千葉さんはご夫婦で浄化のハーブと呼ばれるホワイトセージや他のハーブを無肥料、無農薬の自然栽培という農法で栽培。「Thousand Leaves(サウザンリーヴズ)」という屋号で、アロマスプレーやキャンドルを製造し、主にネット販売しています。「かおりむすび」はその直営店舗。現在は完全予約制ですが、2026年6月からは金曜も営業を始め、予約なしでもご来店頂けるようになります。
夫と4人の子どもたち、ワンコと山々に囲まれた深い自然の中で暮らす日々。
スーパーポジティブ、パワフルな母であり、慈愛に満ちたカウンセラーでもあり、自身の弱さも認めるひとりの人。
子どもとハーブを育てるために、自然を求めて辿り着いたこの地での生活とこれからについて伺いました。
【宮川のグリーンに導かれて】
愛知県から大台町の中でも旧宮川村の山深い地域へ移住した千葉家。
田舎ならどこでも良かった訳でなく、ホワイトセージが育てられる温暖な気候、空気と水が綺麗、両親のことも考え実家へすぐ駆け付けられる距離感、という条件の元、たくさんの土地を見て回ってきました。
そんな中訪れた奥伊勢。
「宮川を見た時にホワイトセージのグリーンと同じに見えたんだよね。あ~、ここだ~って」
ピンときた瞬間でした。

「その足で役場へ寄って色々聞いて、保育園も見せてもらって、フォレストピアで温泉に浸かって帰った(笑)」
直感を信じ、持ち前の行動力で移住へと動きます。自分たちの条件に合う家がすぐ見つからなかったり、コロナ過であったりとトントン拍子にはいきませんでしたが、地域の方のご協力があり、ついに豊かな自然に囲まれた生活の場を手に入れました。
【香りを生業に】
夫の友喜さんは元々野菜を育てていましたが、ある日、ネイティブアメリカンと共に暮らした経験のあるお客様の「ホワイトセージ、育ててみたら」という一言からこのハーブに興味を持ち始めます。
ホワイトセージは古くからアメリカ原住民の間で重要な会議の時や浄化のために使われてきたもので、最初は独特な香りだなぁと思うだけだった友喜さんですが、日々使っていく内に、気持ちが落ち着く効果を感じ始めます。
そして、当時、産後うつに苦しんでいた結香さんを少しでも和らげようとホワイトセージのアロマスプレーを作って贈られたそうです。
結香さん自身もその効力を実感し、香りや植物の持つ力で悩める人を助けたり、暮らしを豊かにすることができる!と精力的にアロマの勉強を重ね、様々な資格を取得。
結香さんが「サウザンリーヴズ」の製品すべての香りを考案し、友喜さんが原料の栽培と製品作りをしています。
【かおりむすび】
実店舗を構えて良かったのは、やはり直接会えること。
「ずっとオンライン販売のみだったので、今まで買って下さっていたお客様に直接会うことができたのはすごく嬉しかった」
遠方からわざわざ大台まで「かおりむすび」のために来てくれるお客様もいらっしゃるそうです。

「直接お悩みを伺うことでその人に必要な香りをちゃんと選んであげられるのも、お店ができてよかったな~と思う理由のひとつ」
お客様のお悩みを相談しながらその人オリジナルの香りを調香したり、ワークショップなども行えるようになりました。
また、蒸留器を導入したことで自ら香りを採ることができるようになり、とても楽しんでいる様子の結香さん。ここでは材料が身近に溢れています。
「香りの宝庫なの。大台町は」
杉、ヒノキはもちろん、クロモジや柚子など、山に入ればもっと多様な香りに出会えます。

【田舎で子育て】
都市でなく山間部にこそ未来を感じて移り住んだ千葉家。
田舎の生活がどうですか?という問いに、
「田舎の生活ね。大好きです!わたし、ここでの暮らしは~」
満面の笑みで答えてくれました。
山道を愛犬と散歩し、夏は子どもたちと近くの川で飛び込み、草刈は手がかかるけど庭を臨むウッドデッキで過ごす時間。

「ご近所の方々には本当に感謝してて、すごく大事にしてもらっていて」
みんながみんなを知っている近所づきあい。
「それをネガティブにとらえる人もいるけど、私はすごい良いことだと思ってて。学校の子どもたちもほとんど名前分かるし、それってすごいことなんだよね」
我が子だけでなくお友達も含め、地域の子どもをみんなで見守ろうとする雰囲気。
「みんなが顔見知りってすごく安心感があるし、何かあったら力になってくれる」
窓を開ければ緑の山と清らかな空気。鳥のさえずり。夜は暗闇と満点の星。
保育園でも山へ行ったり原っぱで遊んだり、自然に親しむ遊びをしてくれています。
最高の環境の反面、子どもたちが小学校高学年になってきて困り始めたのは習い事への送迎。子どもの人数が少ないが故、昔は近所で習うことができたそろばんやピアノ、野球、バレーボール、柔道や和太鼓。子どもたちが自転車で通える距離にはありません。
先輩パパやママから言われる田舎あるある、です。
【多様性の中で生きていく】
結香さんは以前イギリスの保育園で働いていたことがあります。
ロンドン郊外のその園は子どもたちも同僚も多国籍。たくさんの価値観に出会いました。
「すごくおもしろかった。いろいろな国の人と働けて」
「会議があってもとにかくみんな自由でまとまらない。発言しにくい中で黙っていると、必ずじゃあユカはどう思ってるの?って聞いてくれて、どんなことも言っても、そうなんだね、あなたはそう思ってるんだねって」
どんな些細なことも反対な意見でも肯定してくれたそうです。
「すごい嬉しくて。自分の意見を堂々と言っていいんだって思えて」
それはそのままイギリスの子どもたちにもされている教育でした。何でもいいから自分の意見を発表し、みんながそれを聞き、共感する。幼い頃から前に出て自分の想いを言う機会を与えられていました。
日本の子どもたちが自分の思っていることを言いにくいのはこの練習ができていないだけだと感じ、帰国後、自己肯定感が高められる英語教室を立ち上げました。

そんな結香さんだからこそ、大台町の自然環境には大満足だけれど、多様な教育という面では公立の学校一択である状況にもどかしさを感じています。
いろんな人がいていろんな子どもがいる。
都会ならフリースクールやオルタナティブスクール(独自の教育方針に基づいて運営される教育機関)、個性のある私立学校など、ひとりひとりに合った居場所を見つけられるかもしれません。
国や宗教や育った環境が異なれば、色んな人の色んな普通があって、先生の言うこと、お母さんの言うこと、YouTuberの誰かが言うこと、それぞれ異なります。
「ママはそう体験したからこう思うけど、もしかしたらそうじゃない人もいるかもしれない」
ママが全てじゃない。先生も全てじゃない。
「その人の正解であって。自分の正解は自分でみつける。だから子どもの居場所を作りたいってずっと感じてはいたけど…」
色んな人に会って視野を広げられる場所。そこは子どものためだけでなく、地域コミュニティの場としても機能する包括的なものをイメージしています。

【今はまだ名前のないその場所】
子どもたちのためのもうひとつの居場所を作りたいという想いが強まってきた結香さんは、「こども食堂」という方法に可能性を見出しています。子どもたちの成長を手助けしたい気持ちと共に今は一人暮らしになってしまったお年寄りなど、世代を超えて集まれる「みんなの居場所」をつくりたいと考えています。
「こどもっていうキーワードがない方がいい。誰でも来ていい場所だから」
そこがオープンする日は、お母さんはごはんを作らなくていいし、約束しなくても誰かに会え、共にごはんを食べて交流できる。
そして教育機関とまではいかないけれど、時にはイベントを企画するなど、
「例えば外国の人が来た時に一緒に過ごして、その国の食べ物を教えてもらってみんなで作るとか、その国の言葉を少しでも覚えて会話にチャレンジするとか」
近所の大先輩に来てもらってお味噌や漬物の仕込みを教えてもらうなど。
広い世界の一幕を垣間見たり、伝統的な暮らしの知恵を学んだり、様々な経験を地域のみんなで楽しみたいと考えています。
【守りたいもの】
「ハーブは獣害が少ないから栽培して農地を守っていきたいと思ってるし、これはまだ先の話だけれど雇用を作っていきたい。町の中に子どもたちや若い人が仕事できる場所を、雇用を生みたい」
家族のこと、周りの温かい人々のこと、仕事のこと、地域の将来、自然環境などなど、毎日4回洗濯機を回す忙しない日々でも、結香さんの頭の中には今日も様々なトピックが満ちています。

「もっともっと大きな展望でいうと結局、山をどうにかせんといかん(笑)。香りの材料でもある山の保全に若い子たちが働ける場所を作りたいし、それがゆくゆくは山を守り、山を守ることは水を守ることと海を守ることに繋がるから。この美しい自然を守れる手段はそこかなぁ。かなり大きな夢だけど」
やりたいことを素直に、そして自身の心と身体に無理のないように。
時には立ち止まり山の中で深呼吸をし、ホワイトセージを焚いて植物の香りを採り、心身のバランスを整えながら未来を見つめています。

ThousandLeaves
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かおりむすび
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